青い青い空に浮いた野球ボール。太陽がまぶしくて、手のひらで陰を作った。
アレを取ればスリーアウト。9回裏、試合終了、ぎりぎりセーフで逃げ切り勝ち。
オーライ、オーライ、
みんなの声が響く。斜め上を見ながら位置を確認する。伊藤がミットをつけた手で顔に陰を作ってる。見上げながら懸命にジリジリと後ずさる。
キャッチするのは伊藤。あいつは時々ミスするけど大丈夫か、薄く引かれた白い雲、天高くまで上がったボールがスローモーションになり、引力にひっぱられて重力を味方につけはじめる。
オーライ!オーライ!
ホームは満塁。もしあのボールをキャッチ出来なかったら点を取られてしまうだろう。
伊藤以外が息を飲む場面。塁にスタンバイしてる敵は伊藤がミスするのを待っている。おのおの1メートルは塁から離れてそうだ。今にも盗塁しそうな気配。
伊藤にかかるプレッシャーはあまりに大きい。あいつは時々ミスするけど大丈夫か。薄く伸びてく白い雲、14時の強い日射し、校庭に吹き荒む強い風ーー
「よっしゃあぁあ!!」
そのときビュウと風が吹いた。キャッチしたハズの伊藤の手からボールが転がり落ちる、慌てて拾うけど見逃しては貰えない、一瞬の出来事。
伊藤が慌ててホームへ投げるが遅かった。キャッチャーがミスして取り損ねて、唖然としてしまい動けない。ベースを踏めば終わりなのに相手が悪かった。
回れ回れ!と懸命に指示を出すヤジと踏め!踏め!と説得しようとするヤジが混ざり合う。「っしゃあぁあああーーー!!」相手側のガッツポーズが眩しい。
伊藤とキャッチャーを責める人は居ない。僕らは悔し涙を堪えながら、堪えきれない嗚咽を漏らす。
あと少し、あと少しだったのにーー
こうして僕らの青春は終わった。最初に勝利を確信したキャッチャーのガッツポーズと相手側のガッツポーズ。
あのときの感情は本物だった。きっと僕は、あのガッツポーズをずっと忘れないだろう。
4月11日はガッツポーズの日!ガッツポーズの日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–