古い、汚い、狭い路地に惹かれて奥へ進んだ。
橙色の提灯(ちょうちん)が並ぶ夜の横町。
小径へ目をやると立ちションしてるおじさん。
へべれけで肩を組むサラリーマンとすれ違う。
とんこつの匂いにむせそうになって、誰かのゲロを踏みそうになって避ける。
道にはみ出して並ぶ低いテーブルと椅子。
やんややんやと笑う声。
えんじ色のエプロンが馴染んだ外国人店員。
言い慣れた『イラッシャイマセー』が耳に優しい。
横町の夜は、みんな明るい。
切れかけの電気よりもずっとずっと明るい。
人見知りの上司も怒ってばかりのお局様も愚痴が多いアルバイトもみんなみんな明るい。
整備された無機質な会社から、古くて汚くて狭い路地へ。
そこではみんなが鎧を外したがって、ひとときの丸腰を楽しむのだ。
フラッシュ・フィクション。4月5日は横町の日。ショートショート(ショートストーリー)毎日『今日は何の日?』をテーマに書いています。–とんこつの匂いにむせそうになって、誰かのゲロを踏みそうになって避ける。やんややんやと笑う声。えんじ色のエプロンが馴染んだ外国人店員。言い慣れた『イラッシャイマセー』が耳に優しい。