「そうかぁ~~~!?」
こじんまりとした居酒屋。隣に座った三十代ぐらいの男だろうか、緩く気崩したスーツ姿で二人が楽しそうに喋っている。
「今どきCGもあるんだから、わざわざ面倒なことしなくたってぇ!」
「いやそれがイイんだよ!!!CGがないあの時代に、全部を自分たちで再現してるんだからぁ!」
「え~~~?!でもたまに、どう見てもミニチュアだろ、みたいな映像もあって笑っちまうけどなぁ!!」
「だからぁ!!それがいいんだってぇ!!」
「わからん!!だったらどう見てもCG!ってのでも同じだろ~~~!」
「いやいや、CGにはロマンがないっ!!あんなのパソコンの中でいじくりまわしてるだけだろ!!」
おっと、そんな言い方は心外だな。確かにパソコンの中でいじくりまわしてはいるけども。
「んなこと言ったって~!いまどきパソコンなんてあたりまえだろ!なんだぁ?じゃあ特撮はパソコン使わないで作ってるんか!?」
おっ!いいぞいいぞ。特撮だってパソコン使ってるよな。映像まとめるのに今やパソコンは必須だしな。
「いやいや!パソコンなんてほとんど使ってない!使ってるうちに入らない!最小限!!」
「でもパソコンなしでは作ってないだろうがよ~~!」
そうだそうだ!
「特撮はなぁ、一生懸命試行錯誤して、手元にあるものとかで工夫でどうにか乗り切ってきた。それが迫力のある映像になったとき、こんなにロマンあることは無いんだよぉ!」
「な~にを!まるで自分が作ったみたいな口ぶりだなぁ!」
「俺だって昔は自分で試してみたものだよ!でもなぁ、あんなに迫力のある映像は、どうやったって作れる気がしないんだ……。」
どうやら随分熱心なファンなようだ。今やCGが当たり前になったからな。こういったファンが今でもいて、それにロマンを感じてるってぇのは、ありがたいこった。
★
彼らよりも先にお暇するとして。さぁて職場に戻りますか。まだまだ特撮を愛してくれる人が居ると知っちゃあ、久しぶりになんだかやってみたい創作意欲が掻き立てられる。
「すいません、お会計。あっちの席で喋ってる二人のぶんも払いたいんだけど」
「え、どうしたんですかぁ?」
「いやぁね、特撮が好きなんだって。」
いつもの店員さんは「そうっすかぁ」と笑った。レジ上に飾られている、俺の古い上司のサイン。こんな小さな古い店も、もしかすると『聖地』なんて言われてるのかもしれないなぁ。
「あざっしたぁ!」
「はいよ」
懐かしい店の匂いを後にして背伸びをひとつ。控えめに蛍光灯がついてる職場に、久しぶりにワクワクしながら入っていった。
暗いままのロビーに貼られた大きなポスター。やっぱり俺は、特撮が好きだなぁ。。
7月7日は特撮の日!特撮の日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–