365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 7.7

「ふっるい映像、だがしかし、それがいい!!」
「そうかぁ~~~!?」

こじんまりとした居酒屋。隣に座った三十代ぐらいの男だろうか、緩く気崩したスーツ姿で二人が楽しそうに喋っている。

「今どきCGもあるんだから、わざわざ面倒なことしなくたってぇ!」
「いやそれがイイんだよ!!!CGがないあの時代に、全部を自分たちで再現してるんだからぁ!」
「え~~~?!でもたまに、どう見てもミニチュアだろ、みたいな映像もあって笑っちまうけどなぁ!!」
「だからぁ!!それがいいんだってぇ!!」
「わからん!!だったらどう見てもCG!ってのでも同じだろ~~~!」
「いやいや、CGにはロマンがないっ!!あんなのパソコンの中でいじくりまわしてるだけだろ!!」

おっと、そんな言い方は心外だな。確かにパソコンの中でいじくりまわしてはいるけども。

「んなこと言ったって~!いまどきパソコンなんてあたりまえだろ!なんだぁ?じゃあ特撮はパソコン使わないで作ってるんか!?」

おっ!いいぞいいぞ。特撮だってパソコン使ってるよな。映像まとめるのに今やパソコンは必須だしな。

「いやいや!パソコンなんてほとんど使ってない!使ってるうちに入らない!最小限!!」
「でもパソコンなしでは作ってないだろうがよ~~!」

そうだそうだ!

「特撮はなぁ、一生懸命試行錯誤して、手元にあるものとかで工夫でどうにか乗り切ってきた。それが迫力のある映像になったとき、こんなにロマンあることは無いんだよぉ!」
「な~にを!まるで自分が作ったみたいな口ぶりだなぁ!」
「俺だって昔は自分で試してみたものだよ!でもなぁ、あんなに迫力のある映像は、どうやったって作れる気がしないんだ……。」

どうやら随分熱心なファンなようだ。今やCGが当たり前になったからな。こういったファンが今でもいて、それにロマンを感じてるってぇのは、ありがたいこった。

彼らよりも先にお暇するとして。さぁて職場に戻りますか。まだまだ特撮を愛してくれる人が居ると知っちゃあ、久しぶりになんだかやってみたい創作意欲が掻き立てられる。

「すいません、お会計。あっちの席で喋ってる二人のぶんも払いたいんだけど」
「え、どうしたんですかぁ?」
「いやぁね、特撮が好きなんだって。」

いつもの店員さんは「そうっすかぁ」と笑った。レジ上に飾られている、俺の古い上司のサイン。こんな小さな古い店も、もしかすると『聖地』なんて言われてるのかもしれないなぁ。

「あざっしたぁ!」
「はいよ」

懐かしい店の匂いを後にして背伸びをひとつ。控えめに蛍光灯がついてる職場に、久しぶりにワクワクしながら入っていった。

暗いままのロビーに貼られた大きなポスター。やっぱり俺は、特撮が好きだなぁ。。

---スポンサーサーチ---

7月7日は特撮の日!特撮の日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–

次へ 投稿

前へ 投稿

© 2024 365文

テーマの著者 Anders Norén