雨の日の博物館は空いている。
時々通り過ぎるお客さんを見守りながら定位置に居るのが自分の仕事。
ガラスに映る大きな恐竜の標本を見ながら、昼に何を食べるか考える。
食堂にあるカレー、それとも外にある蕎麦屋、牛丼、天丼。
窓の向こうは雨。シトシトと降る雨。
見慣れた赤い傘がやってきて、入り口で畳み、彼女が入ってきた。
「こんにちは〜」
「こんにちは。」
毎日のようにやってくる女性だから、こちらももう顔見知りのようなものだ。
だけど自分とはほとんど話した事は無いから、挨拶と会釈だけした。
そのまま奥へ入っていく女性。
ガラス張りに映る、大きな大きな恐竜の標本を見上げる女性。
あの子が好きなのは恐竜じゃなくて、多分…。
「ありがとうございました」
帰り際、彼女はニコリとお辞儀をして挨拶して行った。こちらも釣られて会釈する。
アイツは今日は休みだからきっとガッカリしただろう。
窓の外、遠ざかっていく赤い傘と、ガラス張りに映る恐竜の標本が共演した。
シトシト降る雨と赤い傘と恐竜。
タイムスリップした画を見たような気がした。
4月17日は恐竜の日!恐竜の日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–