365 SS 3.9

「あ、すみません……」いつもの調子で言っ.

「あ、すみません……」いつもの調子で言った時だった。なんだか変な空気を感じて顔を上げた。揺れる電車の中、目の前に居たのは外人で、不思議そうな表情を見せた。

体格で言えばケンタッキーの前に置いてあるカーネルおじさんのような、顔で言えば鈴木おさむにヒゲを生やしたみたいなそんな風貌。

外人の表情は日本人とは全然違う。
同じ表情を日本人がすればきっと『不快』の表情だと思うだろう。

不思議そうな表情を見せた、恐らくアメリカ人のおじさんは、にこりとこちらに微笑んだ。

そして何事もなかったように隣にいる家族と会話を続けた。

ほんの少し居心地の悪さを感じながらそのまま揺られた。車内はそこそこ混み合っていて、ほかに移動するには人を掻き分けないといけないからだ。

不審がられるのも嫌だし周りに迷惑をかけそうだし、なにより三個先の駅で降りるのが困難になりそうだった。

車内に揺らされながらスマホをいじり始めると、タイミングの悪い揺れを食らって、今度はお姉さんにぶつかってしまった。

「すみません」消え入るような声で言いつつ顔を伺うと、イヤホンで音楽を聴きながら目を閉じている無反応。

私は安心してまたスマホへと視線を落とした。今度は人にぶつからないように、きちんとつり革を掴まえて。

駅に止まり、人が降りて乗ってくる。
降りるまではあと二駅。

人波に流されそうになりながら、つり革を掴んで場をキープする。順調に電車は進む……かと思いきや急停車。私は必死につり革を握りしめてどうにか耐えた。外人のおじさんは油断してたのか転びそうになって、隣のお兄さんにぶつかった。お兄さんは外国人ということに驚いたのだろう、無言で何度も頷きながらぎこちない笑顔を見せた。

「sorry,thank you!」

外人のおじさんは豪快に笑いながらバシバシ、とお兄さんの腕を2回叩いた。

完全にネイティブな英語にお兄さんは更にビビって、ますます硬い笑顔のまま首を一ミリ下げて挨拶した。

『緊急停止ボタンが押されたため……、』

そんなアナウンスが車内に流れる。

外人の奥さんだろうか、金髪ロングをかきあげながらおじさんに翻訳してあげてるらしい。おじさんはohだのなんだの言っている。

『列車動きますのでご注意ください』

動き始めた時、思わぬ方向に揺られて私はとうとうそのおじさんにぶつかった。

最初にぶつかった時と同じ、私はおじさんに受け止められるようにぶつかってしまい、「ああっ、すみません!」と言った。見上げた時おじさんはまたあの不思議そうな表情をしていて、ハッとして慌てて「センキュー!」と告げた。

おじさんは満足そうな笑顔になって、「No problem!」と言ってバシバシと腕を2回叩かれた。

なんだか気恥ずかしい気持ちのままあと二駅を待っていたら、一個手前で外人夫婦は降りていった。

車内は急にしんと静まり返ったように感じた。

なんとなく寂しい気持ちになりながら、

ああ、あのおじさんが待ってたのはやっぱり『ありがとう』なんだな、と思った。

スミマセンじゃなくて、アリガトウなんだ。

ああゆう時は、アリガトウなんだ。

なんだか外人に言葉を教えて貰ったような気がして不思議な気分だ。

電車が止まり車両を降りる時、一歩踏み出したと同時に『ありがとう』と心の中で言ってみた。

カーネルおじさんみたいなあのおじさんに、アリガトウ。

おじさんの満足そうな笑顔。『嬉しい』そんな感情が、心の中に焼き付いた気がした。

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3月9日は3.9デイ(ありがとうを届ける日)!3.9デイ(ありがとうを届ける日)をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。--