365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 3.30

「ジェイミー、久しぶり」

カフェの店員へ「おう」とだけ答えてホットコーヒーを受け取った。愛想が良い男ジェイミー。白人で潔癖症気味、理屈っぽく細かい。ジェイミーはエリートだ。そして俺はマフィアだ。気づかれてはいけない。

無論ジェイミーなんて人物は戸籍上居ない訳だがここに存在している。

『何かを考えてる』と思わせてはいけない。

2人用の席、手前側に座った。新聞を片手に内容を読む。足は組んで腰掛け優雅に座る。ロレックスの時計に目をやる。7時50分だ。

それから9分間新聞を読んだ。一字一句見逃さずに内容を測る。社会の出来事を知るのは大切だ。いつどんな事が自分に降りかかってくるか解らない。

7時59分。新聞を畳みテーブルの横へ置いた。待ち合わせは8時。彼が現れるのは、多分適当に5分後か、7分後か—

カランカラン、店内のドアにぶら下げられている小さな鐘が鳴った。入ってきた彼は店内を見ながら歩き、すぐこちらに気づく。片手をあげて口角をあげる。こちらも同じように応じた。
店員からエスプレッソを受け取りこちらへやって来る。
椅子を引いて着席する直前、時計を見て笑いながら言った。

「3分待たせたか」
「解ってるならちょうどに来てくれ」
「ちょうどに来ないって解ってるだろう?君が来る時間をズラせば良い」
「気持ちが悪くてそうゆうのは出来ないんだ」

からかうように会話してユーキは着席した。日本人にしては背が高いユーキはスタイルが良く見栄えが良い。
そこまで聡明なタイプでは無いが神経質な性格はジェイミーと相性が良い。

「それで今日は?」ユーキがエスプレッソをひとくち飲んで言う。

「言っただろ、宝くじさ」
「本当か?お前が宝くじを買うなんて世界も終わりだな」
「買いたくて買った訳じゃ無い。取引先がうるさいんだ。」
「宝くじを買えって?」
「社長が好きらしい。物好きにも程がある。俺はこういった類は気が削がれるから嫌いなんだ。貰ってくれ」
「何枚買った?」
「50枚だ」
「そんなに買ったならどれか当たるかもしれないぞ。持ってれば良い」
「気が削がれるのは嫌いなんだ。」

ユーキは「お前らしいな」と受け取った。そして笑いながらこちらを見る。

「だからガールフレンドは居ないのか?」
「そうだな」

ジェイミーは潔癖気味で理屈っぽく細かい。気が削がれる事は嫌いだ。

立ち上がり「じゃあな」と言った。「もう行くのか?」「言っただろ、朝は忙しいんだ」「俺も行こうかな」「好きにしろ」

8時13分。席を離れて店を出た。20歩目を踏み出したとき背後で爆発が起こった。慌ててしゃがみ込むと「テロか?!」とユーキに引っ張られて姿勢を低くしながら物陰へ移動した。

俺はマフィアだ。気づかれてはいけない。
『何かを考えてる』と思わせてはいけない。

いつもなら『俺は暫くココでエスプレッソを嗜むよ』と言うはずのユーキ。ジェイミーの友人。俺にとっては人生のうちで出会って別れる、さほど重要じゃない筈の1人。

1度目に失敗すれば2度目は難しい。ユーキ、きみはマフィアか?FBIか?

「気が削がれるのは嫌いだ」
「同感だ」

どうかただの一般人であってほしいと願うのは、勝手だろうか—

---スポンサーサーチ---

3月30日はマフィアの日!マフィアの日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–

次へ 投稿

前へ 投稿

© 2024 365文

テーマの著者 Anders Norén