365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 3.12

(あ、谷口さん、今日は金のフォークだ。)

取引先からフルーツタルトを貰った。

谷口さんのお気に入りっぽい金のフォーク。

ケーキとかを貰うと、鍵のついた引き出しから取り出して、金のスプーンやフォークを取り出す。

会社のものを使うのが嫌なのかどうかは、わからない。

経費で買った まあるい湯呑みは使うから、それは気に入ってるのかもしれない。

谷口さんのお気に入りのものたち。

きっと谷口さんがひとつひとつ見つけて来た、選ばれたアイテムたち。

淡い色のひざ掛け。金のフォーク。金のスプーン。紅茶専用のティーカップ。

今日は煎茶なんだなぁと思いながら、こちらも違う取引先から貰った桜餅に噛み付いた。

中の餡子が意外と重くて甘酸っぱくて、慌てて煎茶で流し込む。

「その桜餅ウマいよな〜」
「お?おー」

声を掛けてきたのは小野寺。
谷口さんが今日小野寺と話したかどうかは、わからない。
紅茶の日は砂糖がゼロ個。
煎茶の日はいつも変わらない。
だから判断がつかない。

「お前あまいの好きだったっけ」
「俺めっちゃ好きやで」
「へ〜、そーなん」
「せやで。あとなぁアレ、麩菓子も好き」
「聞いてないわ」
「聞きたいかと思ってん」
「全然」
「なんやお前つめたいなぁ〜!」
「東京モンは冷たいんです〜」

小野寺は明るく笑いながら席へと帰って行った。

(……あ、方言?)

谷口さんのルール。

もしかすると方言が関係してるかもしれない。

そんなことを思いながら桜餅に噛み付くと、中の餡子が重くて甘酸っぱくて、慌てて煎茶で流し込んだ。

谷口さんの後ろ姿は、いつもと同じく、のんびりとタルトを頬張ってるようだった。

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3月12日はスイーツの日!スイーツの日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–

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