取引先からフルーツタルトを貰った。
谷口さんのお気に入りっぽい金のフォーク。
ケーキとかを貰うと、鍵のついた引き出しから取り出して、金のスプーンやフォークを取り出す。
会社のものを使うのが嫌なのかどうかは、わからない。
経費で買った まあるい湯呑みは使うから、それは気に入ってるのかもしれない。
谷口さんのお気に入りのものたち。
きっと谷口さんがひとつひとつ見つけて来た、選ばれたアイテムたち。
淡い色のひざ掛け。金のフォーク。金のスプーン。紅茶専用のティーカップ。
今日は煎茶なんだなぁと思いながら、こちらも違う取引先から貰った桜餅に噛み付いた。
中の餡子が意外と重くて甘酸っぱくて、慌てて煎茶で流し込む。
「その桜餅ウマいよな〜」
「お?おー」
声を掛けてきたのは小野寺。
谷口さんが今日小野寺と話したかどうかは、わからない。
紅茶の日は砂糖がゼロ個。
煎茶の日はいつも変わらない。
だから判断がつかない。
「お前あまいの好きだったっけ」
「俺めっちゃ好きやで」
「へ〜、そーなん」
「せやで。あとなぁアレ、麩菓子も好き」
「聞いてないわ」
「聞きたいかと思ってん」
「全然」
「なんやお前つめたいなぁ〜!」
「東京モンは冷たいんです〜」
小野寺は明るく笑いながら席へと帰って行った。
(……あ、方言?)
谷口さんのルール。
もしかすると方言が関係してるかもしれない。
そんなことを思いながら桜餅に噛み付くと、中の餡子が重くて甘酸っぱくて、慌てて煎茶で流し込んだ。
谷口さんの後ろ姿は、いつもと同じく、のんびりとタルトを頬張ってるようだった。
3月12日はスイーツの日!スイーツの日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–