「緊張してんの?」
戦友とも言える相手がこちらを見下ろしている
当たったのは木の枝か?
土の上を見回して、何を投げたのか探しながら「そりゃするでしょ」と応えた。
初飛行。このだだっ広いだけの原っぱを舞台に、いよいよ飛ぶ。
イメージは完璧だ。フランスで見た、あの空を舞う大きな翼。
緊張しながらいざ飛ばんとする雄々しい横顔。
物凄い轟音に突風を巻き起こして颯爽と駆けていく車体、空中を割り進む〝飛行機〟。
準備は万端だ。
油も部品も間違いない。
とうとう飛ぶんだ。
「行くよ」
機体へと歩き着席して、「飛ぶんだ」と言った。
「もう?ちゃんと準備した?」
「大丈夫、飛ぶ」
「大丈夫かなぁ~あっほら、帽子つけ忘れてるし」
手渡してやると、クリッとした目を見開いて、おどけて笑った。
「行くよ!」
高らかに一声上げると同時。
エンジンが掛かって轟音の序章が始まる。
新聞記者らも俺もみんな息を飲んだ。
動き出す車。勢いを増してハイスピードになっていく。
そうしてピョコンと地面からジャンプした。記者達の喝采と万歳の合唱。
勢いのみで浮遊して大きくバウンド、再び宙を浮きそのまましばらく、空を飛んだ。
嬉々とした横顔は興奮状態なのが解る。見てるこちらも思わずてのひらを強く握った。
いけ、もっと、大きく空へ。
あの重たい金属片が空を舞うんだ。
もう全てぶっ飛ばして、人地を越えた新世界へ
神々がいる天へと、近づいていけ!
数分いや数秒の間に掌がじんわり汗ばむ。
人の道を越えた新しいプロローグの始まり。
それは確かに、人類初の飛行が成功した瞬間なのだ。
コツ、
子供が投げた小枝が石に当たった。
ここは代々木公園。
鬱蒼と茂る青に覆われて、砂利で囲まれたスペースに2つの銅像が建つ。
石に書かれた文字を読みにくる人間はさほど居ない。
けれどもしかし、その功績は、今もひっそりとその地に佇んでいる。
365 SS 12.3
12月19日は日本初飛行の日!日本初飛行の日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–