365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 12.19

何処からともなく振って来た何かが頭に当たりその方角を見た。
「緊張してんの?」

戦友とも言える相手がこちらを見下ろしている

当たったのは木の枝か?
土の上を見回して、何を投げたのか探しながら「そりゃするでしょ」と応えた。

初飛行。このだだっ広いだけの原っぱを舞台に、いよいよ飛ぶ。

イメージは完璧だ。フランスで見た、あの空を舞う大きな翼。

緊張しながらいざ飛ばんとする雄々しい横顔。

物凄い轟音に突風を巻き起こして颯爽と駆けていく車体、空中を割り進む〝飛行機〟。

準備は万端だ。
油も部品も間違いない。
とうとう飛ぶんだ。

「行くよ」

機体へと歩き着席して、「飛ぶんだ」と言った。

「もう?ちゃんと準備した?」

「大丈夫、飛ぶ」

「大丈夫かなぁ~あっほら、帽子つけ忘れてるし」

手渡してやると、クリッとした目を見開いて、おどけて笑った。

「行くよ!」

高らかに一声上げると同時。
エンジンが掛かって轟音の序章が始まる。
新聞記者らも俺もみんな息を飲んだ。

動き出す車。勢いを増してハイスピードになっていく。

そうしてピョコンと地面からジャンプした。記者達の喝采と万歳の合唱。

勢いのみで浮遊して大きくバウンド、再び宙を浮きそのまましばらく、空を飛んだ。

嬉々とした横顔は興奮状態なのが解る。見てるこちらも思わずてのひらを強く握った。

いけ、もっと、大きく空へ。

あの重たい金属片が空を舞うんだ。

もう全てぶっ飛ばして、人地を越えた新世界へ

神々がいる天へと、近づいていけ!

数分いや数秒の間に掌がじんわり汗ばむ。

人の道を越えた新しいプロローグの始まり。

それは確かに、人類初の飛行が成功した瞬間なのだ。

 

 

 

コツ、

子供が投げた小枝が石に当たった。

ここは代々木公園。

鬱蒼と茂る青に覆われて、砂利で囲まれたスペースに2つの銅像が建つ。

石に書かれた文字を読みにくる人間はさほど居ない。

けれどもしかし、その功績は、今もひっそりとその地に佇んでいる。

365 SS 12.3

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12月19日は日本初飛行の日!日本初飛行の日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–

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