365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 4.13

お好きな席へどうぞの声と同時に入店を知らせるカランカラン、鈴が鳴った。

店内を見回せば、備え付けのテーブルと、申し訳程度のちいさな椅子。

外の様子が見える窓際かモクモクと煙りの立つ喫煙席か。

呼ばれるように奥へ進むと、空気がうっすら白くなっている。

狭い店内にひしめく喫茶を楽しむ人々。

茶色の灰皿へトントン、タバコを当てて、5、6本の吸殻が見えた、中でも居心地の悪そうな中央の席へと座る。隣の席とを区切るように立てつけられた壁にメニュー。

眺めると、昔ながらの純喫茶らしいお品書き。

『おかわり自由』のコーヒー、紅茶、ミルクのホットとアイス。

定番らしいクリームソーダとメロンソーダ、コーヒーフロートにカフェモカにオレンジジュース、ココア。

モーニングセットはシンプルなトーストにゆで卵、ちいさなサラダにドリンクが付いている。写真の下に書かれた『終日OK。』の文字がもはやモーニングの意味をなしてない。

年の割に元気そうなおばちゃんが慣れた様子で水をテーブルへ配置しに来た。

「あ、ココアください」
「はい。」

決して感じの悪く無い、あっさりとした接客態度で調理場へと戻っていく。

あのおばちゃんが作るんだろうか?

店内を改めて見回すとその歴史の長さを感じた。

色あせたピンクの大きな電話。
レトロな黄色い光の照明。
見たことも無い形のシュガーポットに懐かしい雰囲気の塩のボトル。つまんで振ると、中に入ってる米粒が揺れてキンキンと可愛い音が鳴った。

「ココア」

テーブルに置いたはずみで、コンと音を鳴らす。

おばちゃんは決して感じの悪く無い、あっさりとした接客態度で調理場へと戻っていった。

ちいさなティーカップに浮いた生クリームとチョコレートソース。

ひとくち飲むと、懐かしい味がした。

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4月13日は喫茶店の日!喫茶店の日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–

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