一瞬を駆ける
結局は賭け事だから、自分が賭けた馬が勝つかどうかがまず問題だ。
だけどそれでも、目を見張る馬はいる。大して強くも無い、故障も多い、それなのに目を奪われる馬は居る。
走る姿はまるで海のようだ。流れる毛並み、締まった筋肉、跳ね上がる土、長いまつげは切れ長で、大きな黒い瞳の奥は優しさが溢れている
「っいけえええええ、勝てええ、負けるなああああ」
いつもあの馬に賭ける男がいた、必ず負けると解っててそれでも「好きなんだ」と言っていた。
それでもきっとあの馬は負ける、負けるのに、会場にいるほとんどの人はあの馬の美しさに見惚れている。
勝敗だけの世界なハズなのにあの馬はまた駆ける。
観客を魅了して、それでも美しくしなやかに。
End.