365 SS 8.23

今年もまた、この時期が来た。 「観光です.

今年もまた、この時期が来た。

「観光ですかい?どこから」
「東京のほうです」
「そうなんです。鶴ヶ城の次に見るところはお決まりで?」
「飯盛山に」
「おぉ、そうですか。飯盛山には白虎隊で有名で」
「はい。それを見に来ました。」

ハッキリと告げた青年は、輝くような目で車窓の向こうを眺めている。歴史ファンだろうか。

「もし良かったら、お城の後には案内しますよ。この辺にいるんで、電話してくれたら」
「いいんですか?ありがとうございます!」

にこにこと楽しそうな感情を隠せないような青年は、その体格を見ると大学生ぐらいだろうか?
すこしずんぐりとした印象がある、骨太な青年だ。

「じゃあまた連絡します!」
「はいはい。楽しんでね」
「ありがとうございます!」

青年達を見送って、さて一服。
近くの駐車場に車を留めて手袋を外し、外へ出るとタバコに火を付けた。

1時間半経ったぐらいで、青年達から連絡が来た。

「楽しめましたか。」
「はい!お城の上からの景色も良くて。」

そうですかぁ、と言いながら、青年達を飯盛山へ連れて行く。

「お兄さん達よりも幼い年齢の子達ですね。ここから鶴ヶ城が見えるでしょう・・・」

いつもの通りに紹介する。青年は隣にいる女性を見ると、「すごいね」とにこやかに話しかける。

「ありがとうございました!」
「はい。まだ何日かいるんですか?」
「そうですね。明日には帰ります」
「そうですか。また足が必要だったら連絡してくれれば。いつでも来ますよ」
「ありがとうございます!」

車を出して進み始める。途中でミラーを通して二人を見ると、青年と女性ではなく、仲睦まじいカップルのように見えた。

青年はしっかりと凜々しい眉をしていて、ハッキリとした意志がなぜだか、それこそ白虎隊を思わせる。

私にとってのタクシーの運転手は、明るく楽しく街を紹介する仕事だと思っている。

特に観光名所であるこの土地を紹介するのが私は好きだ。

呼び止められる度に異なる客を乗せたほうがお金になるけど、どうもそれだと面白くない。

観光しに来た人に寄り添い、ひとときだけど出来るだけ長く過ごす。たった一瞬の出会いよりも、自分にとってはずっと良い。性分に合っているし、それが私のやりがいってもんで。

楽しいひとときを過ごして貰うために気をつけていること。

それは有名な方の歴史を紹介することを優先するか、それとも有名ではない真実を伝えるか。

たいていは有名な方の歴史を伝えるけど、真実を知ってるお客さんも時々居るわけで。

(さぁて今の子達は、もしかすると、知っていたかな?)

白虎隊よりもきっとお兄さんの年頃の男女を連れて、鶴ヶ城を遠くに眺める。凜々しい眉を思い出し、狼煙(のろし)のように上がった朱を想像した。

空はカラリと、晴れている。

---スポンサーサーチ---

8月23日は白虎隊自刃の日!白虎隊自刃の日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。--

This article was written by ねこ