「観光ですかい?どこから」
「東京のほうです」
「そうなんです。鶴ヶ城の次に見るところはお決まりで?」
「飯盛山に」
「おぉ、そうですか。飯盛山には白虎隊で有名で」
「はい。それを見に来ました。」
ハッキリと告げた青年は、輝くような目で車窓の向こうを眺めている。歴史ファンだろうか。
「もし良かったら、お城の後には案内しますよ。この辺にいるんで、電話してくれたら」
「いいんですか?ありがとうございます!」
にこにこと楽しそうな感情を隠せないような青年は、その体格を見ると大学生ぐらいだろうか?
すこしずんぐりとした印象がある、骨太な青年だ。
「じゃあまた連絡します!」
「はいはい。楽しんでね」
「ありがとうございます!」
青年達を見送って、さて一服。
近くの駐車場に車を留めて手袋を外し、外へ出るとタバコに火を付けた。
1時間半経ったぐらいで、青年達から連絡が来た。
「楽しめましたか。」
「はい!お城の上からの景色も良くて。」
そうですかぁ、と言いながら、青年達を飯盛山へ連れて行く。
「お兄さん達よりも幼い年齢の子達ですね。ここから鶴ヶ城が見えるでしょう・・・」
いつもの通りに紹介する。青年は隣にいる女性を見ると、「すごいね」とにこやかに話しかける。
「ありがとうございました!」
「はい。まだ何日かいるんですか?」
「そうですね。明日には帰ります」
「そうですか。また足が必要だったら連絡してくれれば。いつでも来ますよ」
「ありがとうございます!」
車を出して進み始める。途中でミラーを通して二人を見ると、青年と女性ではなく、仲睦まじいカップルのように見えた。
青年はしっかりと凜々しい眉をしていて、ハッキリとした意志がなぜだか、それこそ白虎隊を思わせる。
私にとってのタクシーの運転手は、明るく楽しく街を紹介する仕事だと思っている。
特に観光名所であるこの土地を紹介するのが私は好きだ。
呼び止められる度に異なる客を乗せたほうがお金になるけど、どうもそれだと面白くない。
観光しに来た人に寄り添い、ひとときだけど出来るだけ長く過ごす。たった一瞬の出会いよりも、自分にとってはずっと良い。性分に合っているし、それが私のやりがいってもんで。
楽しいひとときを過ごして貰うために気をつけていること。
それは有名な方の歴史を紹介することを優先するか、それとも有名ではない真実を伝えるか。
たいていは有名な方の歴史を伝えるけど、真実を知ってるお客さんも時々居るわけで。
(さぁて今の子達は、もしかすると、知っていたかな?)
白虎隊よりもきっとお兄さんの年頃の男女を連れて、鶴ヶ城を遠くに眺める。凜々しい眉を思い出し、狼煙(のろし)のように上がった朱を想像した。
空はカラリと、晴れている。
8月23日は白虎隊自刃の日!白虎隊自刃の日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–