365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 6.7

世界がどんどん狭くなっていく。見えてたものが見えなくなっていく。


気づけばいつの間にか、目が悪くなっているらしい。

「いい加減メガネ作りなよ~~」

話の流れで、ふいに娘にそう言われた。

「見えてるからいーんだよ」

目が悪い、と言ってもそれほどでも無いと思う。家の中はいつものように見えてるし、会社でだって不便はない。

「お父さんって焼酎とか飲むの?」

「おー、飲む飲む。俺は酒ならなんでも飲むんだぁ~」

「好き嫌いとかあるでしょ?芋焼酎は?」

「おー、いいね」

ふと、カウンターキッチンに並べてあるボトルの事を思い出した。
いつからか父の日に贈ってくれるようになった、俺の名前入りの酒のボトル。勿体なくて、まだ一口も飲めてない。

「酒ならなんでもいーんだ、俺はぁ」

視界がうっすら滲んで、あぁ、やっぱり眼科に行ってみようかという気になった。

今年もそろそろ父の日だから、自分のために今年もまた名入りのボトルを贈ってくれるつもりなんだろう。

目が悪くなったって、今まで見えなかったものが見えるようになる事もあるんだ。

娘の顔をもっとよく見て覚えておくために、眼科へ行こう。そう思ったんだ。

End.

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テーマの著者 Anders Norén