365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 6.4

森の匂いがする。


天気は晴天、カンカン照りのハズなのに、森の空気はどこか湿っている。

木々のお陰で影が出来ている。それは木漏れ日というよりもほぼ影の中。

向こうの方に見える光はまっすぐ森の中へと差し込んで、はらっぱらしい情景を照らしている。

森林のこっちは、向こうとはまる別世界。日中使った爽快感強めの汗拭きシートが今更効いて、ひんやり肌寒いくらいだ。

森の中を、どこか遠くでさえずる声が響く。夏の森って思ったよりも静かなんだと初めて知った。

独特の空気感が辺りを包む。森の匂いと、それから、なんとも表現しがたい独特の匂いーー

「ここにすっごいいっぱい居る!」

子供の声につられて向かう。目を向けるとカブトムシ達がこぞってゼリーを食べていた。独特の匂いは、ゼリーなのか、それともカブトムシの匂いなのかーー。

久しぶりに見た蠢く虫に若干恐怖を感じつつ、「パパが倒れたー!」という子供の声が聞こえた気がした。

End.

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テーマの著者 Anders Norén