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365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 6.27

『今日はちらし寿司の日です★』


スーパーで買い物をしていると、そんなポップが目に入った。

一瞬目を疑った。ちらし寿司の日?いやいや嘘だろう。ちらし寿司と言えば、ふつうはひな祭り。
何かお祝い事の日なら解るけど、何でこんな梅雨の時期に???

ポップには小さな文字で説明が書いてある。思わず近づいて、ちいさな文字を読んでみた。

『どうして今日はちらし寿司の日なの?
〜豪華なちらし寿司は、実は質素の為だった?〜
ちらし寿司は江戸時代に誕生しました!
池田光政という人物が、質素な生活の勧めるために「一汁一菜」というお触れを出しました!
質素、と言われても、やっぱり美味しい食事をしたかった人々は、魚や野菜をごはんに混ぜ込み、「一菜」と数えました。
なんとちらし寿司は、「質素」という目標のために出来たものだったんですね!
質素を謳った池田光政が居なかったら、ちらし寿司は誕生していませんでした。
そんな6月27日は、池田光政の命日です。と言うわけで、6月27日は「ちらし寿司の日」なのでした★』

「へ〜え」と思わず声を出すと、近くで買い物をしていたおばあちゃんに話しかけられた。

「何か面白いものでもあったの?」
「今日はちらし寿司の日なんだって」
「へえ。こんな梅雨の日に?」
「ねえ〜。」

説明するには少々大変そうだったので割愛してしまった。

まあせっかくだからと『ちらし寿司の素』をカゴに入れる。

ちらし寿司ならそうね、卵と、エビと、何か菜っぱと・・・。

ふとおばあちゃんのカゴの中を覗くと、納豆とおくらが入っている。

ちらし寿司を作ろうとしてる自分より、おばあちゃんのメニューの方が池田光政が喜びそうだな、と思いながら、おばあちゃんを見送った。

End.

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