365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 6.17

父の日に、あの少年を見かけた。


少年は中年男性と手を繋いで歩いていた。

楽しそうに笑って、男性を見上げる少年。

母親は今日は居ないのだろう。ふたりで連れ立ち、歩いている。

5丁目の角に住む奥さんところの一人息子。ひな祭りの日に正座をして、まっすぐ静かに雛飾りを見ていた少年。

彼の両親は少し前に離婚して、母子家庭。

事情は色々聞いている。

楽しそうに笑う少年。

心にグッと楊枝が刺さるような痛み。

放っておいてあげたいのに、放っておけないような。

だけど、放っておいてほしそうな。

今日はきっと、楽しいひとときなんだろう。

彼の事は、そっとしておこう。

声を掛けるのを止めて、そんなことを想った。

End.

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テーマの著者 Anders Norén