365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 5.5

「絶対ぜったい、離さないでよ!!!」

わかった大丈夫、と言われてペダルを漕ぎ始める。補助輪のない自転車。カラフルでかわいい自転車。ちいさな膝当て肘当て、それからヘルメットはそれでも大きめで緩いせいかすぐにズレる。

「おとうさん!ちゃんといる?!」
「いるよ!」

端的なお父さんの返事を聞きながらまっすぐ前を見ながら一生懸命。

公園の中の自転車練習用の専用コース。コンクリートのスペースにはローラーブレードや一輪車を楽しむお兄さん達もいる。

みんなが思わず見守る姿。

「お父さん、いる?!」

そう聞いた時、〝お父さん〟はすっかり手を離してて、片手を目の上にあて影を作りながら子供の姿を眺めていた。

ぐんぐん進む自転車に初めて乗れた女の子。ヘルメットから覗いたポニーテールの柔らかい髪が風になびく。
慌てて振り返って誰もいない事に気がつく、「お父さん!!」と叫びながらそれでも懸命にペダルを漕いでそのまま。

誰もが息を飲んで見守る中とうとう女の子は初めて自転車に乗った。
みんな経験したことがある懐かしい風景へ思い思いに気持ちを重ねて見た一瞬。

ゴールで待っていたお母さんが、あわててスマホを向けてパシャリと撮った。

青い空と緑、木々から漏れる光が刺して、子供の今にも泣きそうな表情を捉えたその瞬間。

ハンドルが変な方向へ曲がりガシャンと音を立てて転んだ、泣くよりも先に「お父さん掴んでてって行ったでしょ?!」と激怒する子供。

見守ってた傍観者たちが思わず笑った。

ゴールデンウィークこどもの日の、こどもの日らしい瞬間に皆、おもいおもいの感情を乗せて笑った。

End.

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テーマの著者 Anders Norén