365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 5.14

「36度5分。平熱ですね」

「えっ、いや、熱あります!」
「え?6度ですけど?」
「私平熱は35度です!だから熱あります!」
「・・・」

看護師は不可思議そうな表情を浮かべている。

「平熱が7度くらいの人も居ますけどねぇ・・・」

「私は平熱35度なので、いつもより1度高いです。熱あります」

こちらの女性はガンとして意思を曲げる気は無いらしい。ほんの少し赤そうな頬で、看護師の女性を見あげる。

「・・・ああ、じゃあ微熱ですね」

そう言って看護師は去って行った。

残された女性は不服そうな表情で着席した。そうしてスマホで検索し始める。画面には『平熱 何度』と入力している。

ちょうどそのとき、女性の隣に座っていたおじいさんの体温計が鳴った。女性はその音を聞きながら、スマホの画面に夢中だ。

「看護婦さん。37度3分です~」
「はいはい、飯田のおじいちゃん、平熱ですねぇ」
「今日も元気で良かったよお」

そんなやりとりが行われ、女性は不服そうに見上げた。

おじいさんは「わたしゃスマホなんていじらんから、健康なのかねえ」と言った。

女性はますます不服そうな表情をした。

スマホの画面には『日本人の体温の平均値は36.6℃から37.2℃のあいだ。』と書かれている。

(もうこの病院になんか来ない!!!!)

そう固く決心した女性であった。

End.

次へ 投稿

前へ 投稿

© 2024 365文

テーマの著者 Anders Norén