「36度5分。平熱ですね」
「えっ、いや、熱あります!」
「え?6度ですけど?」
「私平熱は35度です!だから熱あります!」
「・・・」
看護師は不可思議そうな表情を浮かべている。
「平熱が7度くらいの人も居ますけどねぇ・・・」
「私は平熱35度なので、いつもより1度高いです。熱あります」
こちらの女性はガンとして意思を曲げる気は無いらしい。ほんの少し赤そうな頬で、看護師の女性を見あげる。
「・・・ああ、じゃあ微熱ですね」
そう言って看護師は去って行った。
残された女性は不服そうな表情で着席した。そうしてスマホで検索し始める。画面には『平熱 何度』と入力している。
ちょうどそのとき、女性の隣に座っていたおじいさんの体温計が鳴った。女性はその音を聞きながら、スマホの画面に夢中だ。
「看護婦さん。37度3分です~」
「はいはい、飯田のおじいちゃん、平熱ですねぇ」
「今日も元気で良かったよお」
そんなやりとりが行われ、女性は不服そうに見上げた。
おじいさんは「わたしゃスマホなんていじらんから、健康なのかねえ」と言った。
女性はますます不服そうな表情をした。
スマホの画面には『日本人の体温の平均値は36.6℃から37.2℃のあいだ。』と書かれている。
(もうこの病院になんか来ない!!!!)
そう固く決心した女性であった。
End.