365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 5.10

「雨ですねぇ」

意図して無かった言葉を掛けられて、「あぁ」と返事がワンテンポ遅れた。

「雨ってなんか憂鬱な気分になりますよね~」
「ああ、・・・そうですね」

何となく答えたけど、返事が面白くなかったらしい。鈴木さんは暫く黙った。

「ツバメがいるんですよ」
「え?どこに?」
「そこの窓の下あたりかな?」
「え、うそうそ!」

鈴木さんが様子を見ようと慌てて席を立つから、「あっ鈴木さん!ちょっと待って!」とこちらも思わず立ち上がった。今にも窓にたどり着く鈴木さんに伝える。「巣を作ってる途中なんです」
「え、巣?!」
「そう、窓の下に。だから見るなら、そーっと開けてください。いなくなっちゃうから」
「あ~」

出来たら窓も開けずにそっとしといてほしいけど、自分が言ってしまったから仕方が無い。鈴木さんはソロソロと窓を開けると下を覗き込んだ。「いないけど?」と嘘つき呼びしそうな気配を察知しつつ「あそこ、窓って言うか、軒下」と少し離れた場所を指さした。

作りかけの巣と、そこから少し離れたところにツバメが羽を休めている。

「へ~!」と大きめの声を出すから、「鈴木さん、しぃぃ~!」と小声で伝えた。

「あんなところにツバメがねぇ~」
「ツバメが巣を作った家は幸運になる、って話があるんですよ」
「へーそうなの?じゃあウチはもう大丈夫ね!」
「え?あ、いやぁ、今はまだ途中だから、どうかな。」
「えーまだダメなの?」
「無事に巣が作れてヒナが生まれて巣立てば、幸運になれるかな」
「ふーん」

そこまで聞くと鈴木さんは飽きてしまったのか、席へと戻って行った。
ツバメはキョロキョロしながら様子を伺っている。

こちらがツバメを見てる事がバレないように窓の外へ視線を外すと、雨の中ぴゅるりとツバメがやってきた。
ツガイの燕なんだろう。巣の方へと向かい、仲睦まじい様子で隣に留まった。

二匹の燕が雨を眺めてる。

ツバメは渡り鳥だ。東南アジアの方からやってくる。

今頃アイツは元気でやってるだろうか。

雨の中のツバメは軒下で羽を休めている。

暫くツバメを眺めていたら、いつの間にか大きな雲がずれていって、晴れ間が差し込んだ。

さっきまで肌寒いくらいだったのに日射しが急に暑いくらいだ。

虹が見えるかもしれないと見上げてみるけど残念ながら無いらしい。

カラカラと音を立てながら窓を閉める途中、ぴゅるりとツバメが飛んで空へと舞い上がった。

後を追うようにもう一匹も舞い上がる。

2匹は楽しそうに縺れ合いながら空へと地面へと飛行している。

その姿はなんだか綺麗で、この様子を手紙にしたためてアイツに送ろうと思えた。

ついでに虹も出てくれりゃあ、もっと気軽に書けるのになぁ。

End.

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