「あれ?レジが開かないぞ」

ある日の朝、店のレジが開かなかった。

「レジ開かないんだけど?」
「あぁ!すみません!忘れてました!」
「ああ、良いけど。開けといてね。」
「はい!」

そのまま時間はお昼12時を過ぎた。

「いらっしゃいませ〜」

いつものようにお客さんが入ってくる。

「あ、こちらでよろしいですか」
「はい。これください。」
「かしこまりました!あちらへどうぞ〜!」

平日はヒマなもので、昼まで売り上げがない、ということもよくある事だ。

その日ようやく売れた商品。お会計をするのに、レジを打とうとしたところでレジが開かない事を思い出した。

試しに開けてみようとするが開かない。

「すみません、少々お待ちください。」

お客さんにそう言って、急いでスタッフの元へ。

「レジ開けて!お客さんいるから!」
「あ、いや、私お金あります!」
「は?なんで?」
「おつりいくらですか?」
「え?いや、そうじゃなくて。レジ開けてくれれば良いんだけど。」
「私ちょっとならあるので……」
「……え?なに、開けられないの?」
「あー、……はい……」
「え、なんで?さっき開けといてって言ったよね?」
「それが、開かないんです」
「は?なんで?」
「開けれないから」
「……どうゆうこと??まあいいや、鍵かして?お客さん待ってるって」
「無いんです」
「は?」
「無いから無理です」

ここまで来て、ようやくある事に気がついた。

スタッフが、何か隠してる。

「……ちょっと意味がわかんないんだけど……」

「あ!店長、レジにお客さんいますけど、レジあいたんですかー?」
「っいや、だから今聞いてて」
「あれ、もう来たの?たしか一時頃って」
「あ、まだ来てなくて」
「あ、そうだよねー。私もどうしようかってハラハラしちゃったー」
「ちょっと待ってちょっと待って、どうゆうこと?」
「あれ?店長に言ってないのー?鍵持って帰っちゃったから無いって。彼氏が持ってきてくれるのが1時くらいだから、それまでお客さん来ないといいねって話してて……」

「……、そうゆうこと?」
「……はい……。」

ようやく話の全貌が見えた。
なるほど、俺にバレたら怒られると思って黙ってたんだ。

「ちょっと、隣行ってくる」

結局、隣の店にお釣り分のお金をだけを借りて、金額は電卓で計算し、お客さんに商品を渡した。

「お待たせしてすみませんでした〜!!レジのトラブルで、本当に申し訳ございません!」
「いや、まあ、いいですよ」
「すみません。ありがとうございます〜!」

お客さんは心優しい人で、文句も言わずにそのまま帰ってくれてホッとした。

「ちょっと良い?」

そこからは、叱る、というか、なぜ隠してたのかを聞いた。

彼女は黙って聞いていて、こちらをじっと見ていた。

一番気になったのは、彼女が一度も謝らなかった事だ。

(早めに解ってたら、俺がお金を用意してから出勤したって良かったのに。いや、俺が出勤してから言っても良かったんだ。
隠してて、ギリギリまでソレを話さないんじゃどうしようもない。
怒られたくなかったのは解る。だけど、やっていい事と悪い事がある。
たかがレジの鍵を忘れただけのことを店長に言えないなんて、この子は、もっともっと大きな失敗をしても言わない性格なんだろう。
人に迷惑をかけちゃダメだって気持ちよりも、怒られたく無いって気持ちのが強いんだ。
そうゆう性格の人間に大きな仕事は任せられない。
それで良いのか?この子は。)

「おはようございます!」

「おはよう。」

今日も彼女は何も気にしてない風に出勤してきた。

彼女は俺のことを、店長として信用してないのかもしれない。

そして俺は、彼女を信用していいか、解らない。

この子が黙ってた事で、ギリギリになって俺が慌てた事も、焦りながら隣の店にお金を借りに行ったことも、その時頭を下げたことも、お客さんに頭を下げたことも、なんとも思ってないんだろうか?

叱りたくて叱ってる訳じゃないのに。
俺だって叱りたくなんてない。

だけど隠されたら何も出来ない。

ほかの人に嫌味を言われたってべつに良い。

だけど、身内にこんなことをされてしまったら、俺は、何を信用して過ごしたら良いのか。

「いらっしゃいませ〜」

誰もいない店内に、自分の声が寂しげに響いた気がした。

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