365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 2.5

布団の中で こそこそと、まるで殻に閉じこもるように世界を遮断した。

自分の匂いで自分しかいない空間。

唯一落ち着く時間。

ゆっくりと静かに息をして、親指の爪の先をほんの少し囓った。

柔らかい堅さの爪の感触が歯に伝わって、優しい。

ムリに囓ればきっと壊れてしまう爪を甘噛みしては、カリカリと小さな小さな音を立てた。

上には二段ベッドで寝ている弟。

隣の部屋で寝てる両親。

ふすまの隙間から父親の歯ぎしりの音が響く。

自分の呼吸の吐息。

生ぬるい布団の中の空気で呼吸しながら、ちいさくちいさく息を吐く。

お昼に食べたオムレツ、夕方見たテレビ、夜にみんなで行ったファミレス

そこで食べたオムライス。

〝あんたほんと玉子好きねぇ〟と笑った母親。

弟がこぼした鶏の唐揚げ

卵が先か、鶏が先か。

ふいに声が聞こえた気がして、そっと布団を押し上げて顔を出した。

ひんやりした空気が冷たい。

外は相変わらず父親の歯ぎしり。月明かりがボンヤリ映す薄暗い部屋の中。

二段ベッドの上に寝てる弟が寝返りを打ったらしい、ギシ、と軋んだ。

布団の中へ こそこそと、まるで殻に閉じこもるように世界を遮断した。

自分の匂いで自分しかいない空間。

卵が先か、鶏が先か。

唯一落ち着く場所。

End.

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テーマの著者 Anders Norén