布団の中で こそこそと、まるで殻に閉じこもるように世界を遮断した。
自分の匂いで自分しかいない空間。
唯一落ち着く時間。
ゆっくりと静かに息をして、親指の爪の先をほんの少し囓った。
柔らかい堅さの爪の感触が歯に伝わって、優しい。
ムリに囓ればきっと壊れてしまう爪を甘噛みしては、カリカリと小さな小さな音を立てた。
上には二段ベッドで寝ている弟。
隣の部屋で寝てる両親。
ふすまの隙間から父親の歯ぎしりの音が響く。
自分の呼吸の吐息。
生ぬるい布団の中の空気で呼吸しながら、ちいさくちいさく息を吐く。
お昼に食べたオムレツ、夕方見たテレビ、夜にみんなで行ったファミレス
そこで食べたオムライス。
〝あんたほんと玉子好きねぇ〟と笑った母親。
弟がこぼした鶏の唐揚げ
卵が先か、鶏が先か。
ふいに声が聞こえた気がして、そっと布団を押し上げて顔を出した。
ひんやりした空気が冷たい。
外は相変わらず父親の歯ぎしり。月明かりがボンヤリ映す薄暗い部屋の中。
二段ベッドの上に寝てる弟が寝返りを打ったらしい、ギシ、と軋んだ。
布団の中へ こそこそと、まるで殻に閉じこもるように世界を遮断した。
自分の匂いで自分しかいない空間。
卵が先か、鶏が先か。
唯一落ち着く場所。
End.