365 SS 2.28

「ばーちゃん、クッキーは~?」

しめっぽい下の戸棚を開けて見回す、タンスを見上げて手で探る。

「ん~?」

「クッキー!めずらしく無いの~?」

冷蔵庫の中を一応開けてみるけど無し。

「んなとこに入っとらんね」

「えー」

「ここよぉ」

「あー」

ばあちゃんはそう言うと、フニフニのフローリングをおもむろに触った。

「はいはい」

そう言いながら、慣れた様子でバコッと床下を開ける。ばあちゃんちにある床下のちっちゃい貯蔵庫が姿を現した。

ところせましと敷き詰められた黄色いバケツや業務用みたいな調味料、何かの漬け物らしい古くさい絵柄の瓶の入れ物。

そんな中から、自分の見慣れたデザインにほっとする。

舌をペロリと出したソバカスのクッキー。

「あんがと!」

ガシっと思った以上の力で渡されたクッキーを受け取る。

「茶ぁいれるけんね」

「はーい」

ばあちゃんちに来たらばあちゃんがルールだ。

ばあちゃんがお茶を入れると言ったら入れるし、手伝えと言われたら手伝う。

ばあちゃんから言わせると俺は『客人』らしいから、居間のドッシリしたテーブルの前に座布団を自分でひいて座った。

「アイスはー?」

「いらんー!」

ばあちゃんにも聞こえるように、いつもよりも大きめの声で返事する。

渡されたクッキーの封を開けて、ばあちゃんが座る場所と自分の目の前に、3枚ずつ並べた。

ばあちゃんはこうゆうとき皿なんて使わない。机の上に置いてたもの食ったからって死なないしお腹も壊さない。とくにクッキーはテーブルに並べるだけ。

暫くして、ガスコンロにかけてたヤカンが、シュンシュンと音を立て始めた。

ばあちゃんの家は広くて寒い。火を灯らせたストーブはジーと小さな音を出して芯を燃やす。ときどきストーブの天板がカンカンカン、と小さな声を上げる。

窓の向こうで雀が通り過ぎる。庭を見ると、どこかの家の白い猫が散歩に横切っていた。

「はいはい」

ばあちゃんは謎の口癖を言いながら、お盆に載せた急須と湯飲みを持ってきた。

「ビスケット好きやけんね」

満足そうにそう言いながら、トトト、お茶を入れてくれた。

たぶん玉露か何かのお茶。優しくて若い葉っぱの匂い。

ズズズ、すすって飲む。ふぅ、と息を吐くと、ほんのり空気が白くなった。

「・・・ばーちゃん、ビスケットって言うけんなぁ」

ばあちゃんは、俺のわざとらしい訛りの話し方に笑った。

静かでうるさくてつまらなくて楽しいばあちゃんちは、

あったかい。

End.