しかしピッチャーが首を縦に振らない。ダメか、フォークを投げる力は無いか。ならばせめてカーブ、しかしこれもダメか。なるほど、お前は、バッターが弱っているからこそストレートで挑みたいのだな。解った良いだろう、キレのあるストレートでぶちかましてやれ、ピッチャーのその勢いで圧倒してやれーー
ボールが投げられ、ふわりと向かってくる。スピードは申し分ないか?いやいやコレでは遅い、緊張したか、もう少し、あと少し、来い、受け止めてやる、黙ってミットに戻ってこいーー
キィィン、音が鳴りボールが綺麗に飛んでいった。反射的に立ち上がる、フライの可能性を考える暇も無くボールが上がって、弧を描いて遠くへ飛んだ
「まわれー!」
相手チームは満塁、つまり満塁ホームランだ。こちらの負けが決定した。ホームを踏んでいくのを見守るしかない。
ピッチャーが頭を下ろしている。「なんで指示しなかった!」とキャッチャーの俺は怒られた。俺は指示した、だけどピッチャーがどうしてもストレートを投げたかったんだ。
ピッチャーが挑みたかった気持ちが解る。ストレートでやってみたくなったのを知ってる。自分の力を試してみたかったんだな。良いだろう、俺はその気概を買ったんだ。気にしなくて良い。
ピッチャーのアイツがこっちを見もせず下を向いている。泣いてるんだろう、不自然に頭を下げてる。
お前の代わりに謝ろう。お前は気にしなくって良い。
「すいませんでした!!!!」
12月12日はバッテリーの日!バッテリーの日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–