365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 11.10

「はい!手を出して」

そう言われて手を出した。先輩が持ってるのはハンドクリーム。

「幸せのおすそ分け!」

明るい声で手のひらに出されたのはハンドクリーム。1センチくらいの小さな白。
ハンドクリーム、と言うものをほとんど使ったことがなかった私は、手へ出されたモノが珍しくて眺めた。

「ほらほら!伸ばして伸ばして!」

先輩はそう言いながら、自分の手の甲にも1センチほど白を出して両手先へ広げた。
ハンドクリームのCMで見かけた動きを思い出して、見よう見まねで手へと広げる。

「いい匂いでしょ?」

そう言われて匂いをかいでみた。自分は付けたことがないような、優しい甘い女の子の匂い。

「あー、いい匂いですね。」
「普段ハンドクリーム使わないの?」

たぶん先輩にはすぐバレたんだろう。「全然使わないですね〜」と答えた。

匂い、と言うのはけっこう記憶に残るものだと思う。あのとき先輩が使ってたあのハンドクリーム。メーカーは知ってるけれど、それよりも街ですれ違うその香りであの先輩を思い出す。

最近街で偶然出会ったボディクリームは、あの先輩が使ってたハンドクリームの香りにそっくりだった。
先輩が使ってたハンドクリームと比べたら値段は全然安いけど、それでもなんだか懐かしくなって買ってみた。

あの時の先輩とは全然会ってないし今はもう連絡先も知らないけれど、今でもふとした時に思い出す。

冬の季節、からだにボディクリームを塗りながら、あの先輩を今年も思い出す。

先輩はいつまでも自分にとっては先輩だけど、あの時の先輩に少しだけ近づいた気がした。

あの頃の自分と比べて、私も少しは大人になっただろうか。

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11月10日はハンドクリームの日!ハンドクリームの日!をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–

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テーマの著者 Anders Norén