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365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 1.14

『タロとジロです!奇跡の生還です!!』

古い映像がLED画面に映し出されている。

音声はプツプツとノイズが混ざって、右下には当時の日付なのか番組名が入っているのかモザイクが掛けられていて読み取れない。
画面が切り替わって画素の高いフルカラーに潤んだ瞳の女優がズームで映る。

懐かしいですねぇ、なんて言いながら目元を拭う姿。

〝タロとジロ〜愛と希望と勇気〜〟という番組名のロゴが左上に出ている。

今日は〝愛と希望と勇気の日〟らしい。

画面の下にはスライドインしてきたTwitterのハッシュタグ付きのテキストがやって来ては、数秒ごとに誰かのコメントが紹介されていく。

次の瞬間明るい笑い声が響く、全く違うテンションの番組に切り替わった。
振り返ると彼女がリモコンを持っていた。

「なんか面白い番組ないね〜」

画面のテンションが9回切り替わる。既視感のある画面が現れ始めたところで、ブツンと画面が真っ暗になった。

「なんで消すんだよ!」
「えっ?みてたの?」
「みてたわ!」
「あ、そーなんだごめん。もう出掛けるかと思って」

イラッとした衝動に駆られつつ、〝愛と希望と勇気の日〟という文字を思い出した。

「あのカフェでいーんだよね?月曜休みのとこ」
「そうそう」
「もう出れるの?」
「あと五分待って!」

彼女の言う〝五分待って〟は地球の時間では〝20分掛かります〟だ。
そろそろ翻訳機が欲しい。……と思いつつ、〝愛と希望と勇気の日〟という文字を思い出す。

なぜか台所へ置かれてしまったリモコンを取り戻し、プツンと音を鳴らして画面がまたテンションを映し出す。

チャンネルは勿論〝愛と希望と勇気の日〟。

「その番組暗いんだよねぇ」

……うん。落ち着こう。
今日は〝愛と希望と勇気の日〟らしいから。

「そう言えば今日お焚き上げだよね?ミニ門松捨てなきゃ。」

彼女はかなり現実派だ。
彼女にとっては

愛と希望と勇気の日 < お焚き上げ

らしい。
そしてこの不等号が逆転する事はきっと一生無いのだろう。

「ねぇ好きだよ?」
「あー、そう」
「あっちょっとちゃんと聞いてる?愛してるってば」
「はいはいはい」

そして俺が〝愛してる〟なんて言うことはきっと一生無い。

結局、だから丁度良いんだろう。

「あっ門松持ってきた?!」
「持って来たよ」
「あっ!!!さっすがあ〜〜〜!!」

うん、だから続いてるんだろう。
うん。
いいのだ、たぶん。

これで丁度良いのだ。

今日は〝愛と希望と勇気の日〟。

「……、」
「……なに?どうかしたの?」
「……いや……」

〝俺も愛してるよ〟

なんて、一生言えそうに無い。

「好きだよ?」
「はいはいはい。」

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1月14日はタロとジロの日(愛と希望と勇気の日)!タロとジロの日(愛と希望と勇気の日)の日をテーマに書いたフラッシュ・フィクション。毎日『今日は何の日?』をテーマにショートショート書いています。–

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