おばさんの家は本当にすぐ近くだった。
お邪魔して、電気がつかない中、いくつか話した。
暗闇のなかでの会話は、どうしても明るい話題ばかりには行かなかった。
ときどき来る余震に怯え、それどころでは無かった。
そんな中、私の両親、兄とも連絡はまだ取れてない状況の中、兄から着信があった。
私は驚きながら電話に出た。
「もしもし!」
「もしもし。地震すごかったみたいだけど、大丈夫?」
「大丈夫!」
「どこに居んの?」
「えっと、・・・ひとんち?!」
は?どうゆう状況だよ?と兄は笑いながら、まずは無事で良かった、と言われた。私は出会ったばかりのおばさんの家に入れて貰い、優しい人だから大丈夫、という事を伝えた。
兄が言うに、すでに母親とは連絡が取れたらしかった。「おかあさんは無事だから」。おとうさんは?と聞くと、まだ連絡は取れてない、まあおとうさんの事だから、へーきじゃない?という話だった。それには私も同感だったが、この異常事態の中ではその口ぶりは少し無責任さを感じた。
関東にいる兄にとっては、心配してるとは言え他人事なのだろう。
それでも母の無事を聞いた私は、安心した。
「おかあさんには伝えておくから。でも、つながりにくいからどうなるか解らない。とりあえずお前はそこから動かないほうが良い。じゃあまた」
そう言って電話を切った。
おばさんにも状況を話し、「良かったねえ」と言ってくれた。
私はすぐに母に電話をしようとしたが、やはり繋がらなかった。
携帯だと電波が混み合ってるのかもしれないと予想した私は、おばさんに、近くに公衆電話が無いか聞いた。
近くにあるという話だったので、おばさんとふたりで一緒にそこへ向かった。
公衆電話には、10人ほどの列が出来ていて、皆同じ目的で並んでいるようだった。
「やっぱりダメね」という人の声や、「繋がらないみたい」とこちらへ教えてくれる人も居た。
私はそれを聞きながらアレコレ考え、災害用ダイヤルに伝言を残すことにした。
Twitterでリツイートされてきた情報の中に、災害用ダイヤルの存在と、使い方が書かれたツイートがあったのだ。
電話が繋がらないのは、きっと携帯だからだろうと私は踏んでいた。
恐らく、携帯電話の電話番号同士では繋がらないのだ。
兄は関東に住んでいるから繋がったのかもしれない。
電話の列は10人程度で多いように感じたが、結局みんな繋がらないためか、順番はすぐに回ってきた。
私は電話の上に使える硬貨を積んだ。
10円、100円・・・、都合良く10円玉ばかり持ってるワケも無く、繋がるかもわからない、何分間 話せるかも解らないながら、100円玉も使うことにした。
まず家の番号に掛けた。それからおばあちゃん、おじいちゃん、おとうさんの会社に掛けたがどれも繋がらない。
念のためそれぞれの携帯電話にも掛けてみたが繋がらない。
Twitterでは『現地にいる人以外は、出来るだけ電話を掛けない方が良い』という情報も回っていた。
知り合いの無事を確認する程度ならば掛けない方が良い、というものだった。
『本当に必要な情報を伝えるための電波を残すため』に、むやみに電話を掛けるな、という内容だった。
Twitterでは、津波にあった人のSOSなども流れていたのだ。
『救助を呼びたいのに電話が掛からない。』
『東北に住んでる知り合いに電話を掛けてみたけど繋がりません、心配です・・・』
『関係無い人は出来るだけ電話を掛けないほうが良い。本当に電話が必要な人が電話を掛けられなくなる』
そんな様々な情報が流れていた。
結局、家にも携帯にもつながらないので、私は家の番号を指定して伝言メッセージの録音機能を使うことにした。
母は『伝言メッセージ』の存在を知らないかもしれないけど、連絡の手立てが全く無いよりは良いかと思ったのだ。
「もしもし、私は無事です。会社の近くにいます・・・」
結局そんな言葉しか思い浮かばなくて、「よろしく」と締めた。
そうしておおばさんと一緒に家へ帰る途中で、私のスマホが鳴った。
母だった。
「もしもし!」
ようやく母と連絡が取れて、無事を確認して私は安堵した。母もやはり父には連絡がつかないらしい。「まあお父さんは大丈夫だと思うから。」
父が昔から悪運が強いのは、家族でも共通認識だった。
それから、出会ったばかりのおばさんの家に居させてもらっていることを伝えると、母は驚きながらも、
「あんたは大丈夫だって思ったからあんまり心配はしてなかったけど、やっぱり無事で良かった。」
と言った。
朝になったら迎えに行くという話になり、おばさんに住所を聞いてそのまま伝えた。
母と兄と祖父の無事を知り、私はようやく一安心した。
しかしまだ不安なのは変わらなかった。
震度5弱の余震も時々起こり、公衆電話が空くのを待っている時さえ、地震は頻発していた。
あたりまえながら街は暗かった。
見渡す限りは、どこにも電気が通って無かったのだ。