「あ!あの…、落としましたよ!」
拾ってもらったのはメガネクリーナー。
……そう、実を言うと、わざと落とした。
「あっ、ありがとうございますー…」
一昔前だったらハンカチを落としていただろうが俺は違う。よりナチュラルに、より会話のキッカケになるように…、
「あ、良かったらお礼に…」
「失礼します」
ペコっと軽く会釈をして彼女は足早に去っていった。
「……。」
手元に残された、変わった柄のメガネクリーナーを眺める。
絶対うまくいくと思ったのに、マジかよ…。
「変わった柄だねぇ」
目の前にいたおばあちゃんに話しかけられた。
「……はは、は!」
おばあちゃんの笑顔には、ほんの少し助けられた。
周りの視線を感じながら、とりあえず引きつった笑顔を返すしかなかった。
End.