「今日は禁煙の日らしいよ」
左隣で飄々とタバコを吸うアイツに、こちらも飄々と言ってみた。
アイツはまるで目を点にしてこちらを見てる。
三秒遅れて「ん?」と言った。
「今日は禁煙の日なんだって。」
ダメ押しみたいにわざと言うと、目をぐるりと一回転させる。
そんで「これ水蒸気」と一言。
「はあ?」
「煙じゃ無い、水蒸気」
「知らねーよ」
「水蒸気だからセーフ」
「同じだろ」
「これタバコじゃないんだってー」
飄々と言う姿に呆れる。
最近は色んな店で禁煙が進んでいて、吸える場所も随分減ったらしい。
そんでアイツが今吸ってるのはタバコじゃないらしい。
電子タバコって、俺にとってはただのタバコですけど。
「…あっそ」
呆れてそう返事してやった。
それからアイツは一日タバコを吸わなかった。
…そう言えばさ。
アイツの言う『タバコ』を吸ってる姿って結構好きだったんだよね。
電子タバコじゃなくて普通のタバコ。
指で挟んで眉をしかめて吸う普通のタバコ。
もう見れないんだなーと思ったら少し寂しい。
水蒸気よりも煙の方が、俺は、好きだな。
End.