くぐもった池を、ヒョコヒョコと泳ぐ亀がゆっくりと横切っていく。
ここは日本庭園。
池のところどころに置かれた大きな岩。
池の中へ向かうように生えた樹木が水面ギリギリから横たわり、空へと向かって伸びている。
水面スレスレに伸びた幹に一匹の亀が居る。
のんびりと甲羅を干しているのだろう。
庭園の中では、亀もまたひとつのアート。
ベストショットを撮ろうと角度を探る。数歩近づいてみたり離れてみたり、しゃがんだり立ったり。
時々池の中央で何かが跳ねる。
池の中には大きな鯉達が揺らいでいる。
ベストショットはしゃがんだ状態で。
あと数歩近づきたい。休む亀にピントを合わせ、ジャリ、土が靴底を鳴らす。
ファインダーの中を覗くと最高のフレームが出来上がっていた、今だ!とシャッターを押す直前、レンズから目を離し現実の世界を確認した、「あっ!」
ポチャンと音を立てて休んでいた亀が、前へ進んで池の中へ潜っていった。
逃げていく亀。後ろ足が揺らぐのが見えた。
「あ〜っ、残念……っ!」
シャッターを押せなかったことを悔やみながら、まだまだ生きるであろう亀へ、思いを馳せた。
End.