365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 5.23

くぐもった池を、ヒョコヒョコと泳ぐ亀がゆっくりと横切っていく。

ここは日本庭園。

池のところどころに置かれた大きな岩。

池の中へ向かうように生えた樹木が水面ギリギリから横たわり、空へと向かって伸びている。

水面スレスレに伸びた幹に一匹の亀が居る。

のんびりと甲羅を干しているのだろう。

庭園の中では、亀もまたひとつのアート。

ベストショットを撮ろうと角度を探る。数歩近づいてみたり離れてみたり、しゃがんだり立ったり。

時々池の中央で何かが跳ねる。

池の中には大きな鯉達が揺らいでいる。

ベストショットはしゃがんだ状態で。

あと数歩近づきたい。休む亀にピントを合わせ、ジャリ、土が靴底を鳴らす。

ファインダーの中を覗くと最高のフレームが出来上がっていた、今だ!とシャッターを押す直前、レンズから目を離し現実の世界を確認した、「あっ!」

ポチャンと音を立てて休んでいた亀が、前へ進んで池の中へ潜っていった。

逃げていく亀。後ろ足が揺らぐのが見えた。

「あ〜っ、残念……っ!」

シャッターを押せなかったことを悔やみながら、まだまだ生きるであろう亀へ、思いを馳せた。

End.

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テーマの著者 Anders Norén