365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 5.21

バーカバーカ!

そう言われてどうしても悔しくって泣いた。

今になってみればどんな理由だったか覚えてない。

いつもその男の子に意地悪をされた。
髪を伸ばせば引っ張られるし、切ったら切ったで変だと言われる。

大事にしてたイチゴ型の消しゴムはダサいと言われて、珍しく買った練り消しはすぐに使われた。

そんな男の子との腐れ縁。

小学校1年生から3年間同じクラスでウンザリしてた。

それが4年生で別のクラスになってせいせいした。

とっくに忘れて好きな男の子がいた5〜6年生。

6年生で、ソイツとまた同じクラスになった。

存在さえすっかり忘れてたけど、あるときの席替えで近くになった。

意地悪されてたこともすっかり忘れてた。

そこそこ大人になったかと安心してたある日の昼休み。

私の前の席に座り、振り返って話しかけてきた。久しぶりな気がする会話が楽しかった事を覚えてる。

「お前好きな奴いんの?」
「えー?なにそれ〜」
「居るだろ?誰誰?」
「えー、なにそれ、言ってどうすんのー」
「居るんだろ?言えって言えって〜!」
「うるさいなぁ〜、聞いてどーすんの?」
「聞きたいから聞いてんだって〜」
「げ〜、別にいいでしょ〜」
「じゃあじゃんけんで勝ったら言えって!」
「えー?!まぁいいけど〜」
「じゃーんけーん!ぽん!」
「あ!」
「あーほらほらほら負け!!言え!言え!!」
「っもういいじゃん別に!って言うかアンタこそどうなの?」
「え〜俺?いるよ」
「え!まじ?!誰誰!!」
「えー俺はね〜……このクラスのやつ!」
「えっ!!マジ?!誰!カナコちゃん?あ、わかったしょうこちゃん?!」
「えー、違うー」
「えー!じゃあ誰?ちえこちゃんとか?あ、しおりちゃん?!」
「んー、廊下側一列では無い。」
「まじで!じゃー……ゆかりとか?」
「えー、廊下側二列目でも無い」
「うーん、じゃあー、さとみちゃん?」
「窓側一列でも無い」
「……じゃあまどかちゃんとか?もーーだれ〜?!?」
「えーとね……この列にいる」

 

あの時、もし最後まで私が答えを聞いていたらどうなっていたんだろう。

昼休みの教室。わたしとあの男の子の他に誰か居たかどうかは覚えてない。

どんな気持ちであの男の子は私に話しかけて来ていたのだろう。

もう2度と会うことの無いその人との思い出は、まるで夢の中の物語のように霧が掛かっている。

End.

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