365 SS 3.22

隣に住む人は変な男だ。 ある日の早朝わた.

隣に住む人は変な男だ。

ある日の早朝わたしはとうとうその人を見た。

今まで姿を見た事なんて一度もなかった。

気持ちの悪い妙な髪の長さでうしろに束ねて、こんな朝から出かけてヤバイ事をしてるに違いない。

痴漢か、万引きか、ストーカー?

カーキ色のながいコートを羽織っていた。踊る大捜査線の主人公きどりか?

ながい髪は不潔そうだし人相も悪い。目が合わないように思わず顔を背けた。

そして男はどこかへ行った。何をしにどこへ行くのかすごく気になったけど、気持ち悪いから関わるのも嫌でやめた。

あんな男が隣にずっと住んでたなんて、本当に気持ちが悪い。犯罪者ってきっとあんな感じだ。もし何かされたらどうしよう。
あんなのが隣に住んでたって知ってたならこんなとこに住まなかったのに。

偶然見かけたその日から、なぜかわたしはその男を見かけるようになった。

またいる、あいつ。

今まで会わなかったのになぜ急にこんなに会うようになったのか?

気味が悪い、まさかストーカーしてるんじゃないでしょうね?

そうとう気味が悪かったので、友人に電話した。

やっすい家賃の家だから部屋の壁は薄い。生活音なんてすぐに聞こえるだろう。

隣にも聞こえるように大きな声で話した。

「ほんとに気味が悪くて怖い。気持ち悪い。ずっと隣に住んでたなんて恐ろしくって」

それから男は見かけなくなった。

あの電話の効果があったんだろう。良かった。いっそ引っ越せば良いのに。そのまま消えてくれれば良い。そしたら安心して過ごせる。あんな男が隣に居たんじゃ、家にいるのに気も休まらない。

「うわ」

出勤しようと歩いていたら犬のフンを踏んだ。最悪だ。
家に帰ろうかと思ったけど遅刻しそうだ。そんなことで遅刻するのも嫌で、近くにある溝でこそげ落とした。

「サイアク」

近くの水たまりで靴の底を濡らして、そのへんの道路へ擦りつけた。

「っうわ!」

そして翌日わたしはまた犬のフンを踏んだ。

「なんだよ!昨日のじゃん!!」

昨日自分が踏んだ犬のフンがまだ残っていた。見ると、近くに新しいフンがあった。

「捨てろよ!サイアク!」

だれか新しい住人が引っ越してきたのか、誰かが散歩ルートを変えたのか?とにかくサイアクだ。

私はその位置を覚えて、避けて歩くようにした。犬のフンは相変わらず増えていた。拾わないなら散歩すんなよ!
怒りを覚えながら歩いていると、「っうわ」ゲロを踏みそうになった。

見るとその奥にはゴミがたまっている。こんなところに誰が捨てたんだ?あぁわかったきっと同一人物だ。犬の散歩してるやつが、散歩しながらお弁当でも食べてるのかもしれない。

からになったお弁当のゴミや缶やペットボトルを毎日毎日ここに捨ててるに違いない。

「すいません、通りまーす」
「あっ、はい!」

そんな事を考えながら歩いていたら、家の前で引っ越し業者とすれ違った。だれか引っ越して来たらしい。

私はすぐにピーンと来た。犯人は絶対ソイツだ!!!

新しく引っ越してきた人間。ソイツがこの街を荒らしてるに違いない!!!

どこの部屋だよ!?

そう思いながら引っ越し業者の様子を伺った。廊下に来て私は唖然とした。

ちょっと待て、うちの隣じゃないか?!あの気味の悪い男だったのか?!

私は全ての納得がいって家へ入った。「さいっあく!!!」

ぜんぶぜんぶアイツだったんだ。あの気味の悪い男、あいつのせい!!

犬のフンは増えてくしゴミは落ちてるし、街はどんどん汚くなってく!

そう思ったけど、あれ?

数日経って、隣の部屋番号のポストが満杯になっていることに気づいた。

よく考えてみると、引っ越し業者が来てたって事は、あの気味の悪い男はどこかへ引っ越したってことか。出て行ったのか、アイツ。あぁ良かった、せいせいした!!電話の効果かもしれない。嫌なことがあった時は行動するに限る。これで安心して過ごせる。

道のゴミはなくならないしむしろ増えてる、犬のフンも増えてく。古いのはカピカピになって、雨が降って乾いて、更にカピカピになった化石みたいな犬のフンとほやほやのフン。

「すいません、通りまーす」

ある日また引っ越し業者が来た。
きっと隣へ入る新しい住人だ。

隣に住む住人はすぐに解った。暫くして偶然顔も見たけど、うるさい大学生だった。

前に住んでたあの気持ちの悪い男はずいぶん静かだったんだ。そりゃそうだ、友達も居なさそうだったし。今思えば静かなことだけが取り柄だったんだな。

大学生の男が隣に住みだして、こんなにうるさくなるなんて思ってもみなかった。

ある日とうとう我慢できなくなり「うるさいんですけど!」と文句を言いにいった。
「え?あーまじっすか?!さーせん!」とか何とか。部屋の奥の方でギャーギャー笑う男達の声。友達何人かでたむろして遊んでたのは声でわかってた。

「もう、サイアク!!!」

自分の部屋に帰ろうとドアを開けた時、外に置いてた植物が目に入った。「あれ、枯れてる」

今まで気にもしなかったけど勝手に生きてたから死なないもんだと思ってた。

なんかよくわからない化石。なんて草なのか名前も知らない。汚らしいからすぐゴミ箱に捨てた。

テレビをつけると「世界の水不足が…」とかなんとか。

世界の水不足なんか心配するよりわたしの隣の家をどうにかして欲しい。

あの気味の悪い男の方がまだマシだったかもしれない。

「中国では地下水は汚染されて…」

ああ、中国だから当然だ。中国って水も汚すんだ。

「二十数年後には東アフリカや…」

アフリカなんて私に関係ねーや。面白くもなんともないからチャンネルを変えた。

芸人達が笑う番組。私の好きな番組だ。

『世界の水不足がなぁ』
『水道料金払い忘れただけやろ!』

偶然にも同じ水不足の事を言ってて笑った。

「あはは、タイムリ〜!」

さすがこの芸人、世界にも目を向けてて分かってるぅ。

『せやから井戸掘ったったわ!』
『なんでやねん!水道料金払えばええだけやろ!』
『せやから世界の水不足が…』

世界の水不足か。水が無いなら、あるところへ行けば良いのに。
そんなお金も無いんだろう。可哀想な人達。

「引っ越しちゃえばいいのに。アイツみたいに。」

あの気味の悪い隣に住んでた男は、だれよりも先に逃げたんだろうと私は確信していた。

ズルイしさいあくだ。

こんなゴミみたいな街とっとと捨てて、あの変な男と同じように私もさっさとこの街から逃げよう。

あの男、察知能力はネズミみたいだ。

そうして今もコソコソと逃げ回ってるんだろう。

汚い街を捨てて逃げてまた新しい街へ。