365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

365 SS 3.17

毎週水曜日は会社前にコンビニへ寄る。そして雑誌コーナーの前に着き、入って2日目の少年漫画を読む。

「……いらっしゃいませ〜」

朝、と言ってもまだ混む前の6時半。毎週水曜日だけ現れるその人は、先客の男性に気がついて立ち尽くした。

『……見て!やっぱりサンデーさん達出会っちゃったわね!』

サンデーさんとは、こちらが勝手につけたあだ名。

うちにサンデーが入るのは火曜日朝。発売日は公式には水曜なのだが、配達の都合上、1日前の火曜に入荷する。

『2日目の人どうするんだろ〜』

コソコソ耳打ちするように、噂好きの最近入ったおばちゃんアルバイターがわたしに話しかけて来る。

「……あの、品出し途中ですよね?」
「ええ?いーじゃないのちょっとくらい!ほんっとカタイんだからあ!」

ぶつぶつ言いながら、サンドイッチコーナーに戻っていって作業を始めた。

立ち尽くしたあと、先客の読んでるページ数を確認すると、違う雑誌を手に取り読み始めた。
もうすぐ読み終わると踏んだのだろう。

火曜日朝に来る人と水曜日朝に来る人。

どちらも行動パターンが似てるらしい。

2人が来るのはだいたい6時半。
最初は『元祖サンデーさん』が火曜朝6時半に来ていたが、ある時をキッカケに『次世代サンデーさん』が現れたのだ。

次世代サンデーさんはそのまま堂々と火曜朝6時半にサンデーを読むようになり、元祖サンデーさんが譲る形で水曜朝6時半にズラした。

恐らく元祖サンデーさんは次世代サンデーさんのことをあんまり良く思ってない。

しかし、次世代サンデーさんは恐らくそんなことつゆ知らず、火曜日を譲ってくれたこともきっと知らず、そのまま火曜朝の6時半は自分のサンデーだと思っているに違いない。

「いらっしゃいませー」

入店を知らせる音を聞きながら、棒読みで挨拶をする。

アルバイターおばちゃんはサンドイッチに悪戦苦闘してるのか、挨拶をする余裕無くがんばっているようだ。

朝焼けの日が店内に入ってきて、窓際にある雑誌コーナーは直射日光となる。

いつも思うけどあんなところで読んでて眩しく無いんだろうか。

そういえばあの2人、どちらも色白とは言えない。地黒まではいかないけどそこそこ肌は焼けている方だと思う。あの肌色って、毎週ここで日差しを浴びてるからなんじゃ?

見たことは無いが、店の外から彼らを見たら、朝日が眩しくてふたりとも眉間に皺を寄せてる気がする。

っていうか考えてみたら、ふたりとも入店時は飄々としてるのに退店時は難しそうな顔をしてる。

眉間に皺を寄せたまま漫画を読んでたから、そのクセがついたまま退店して行くのかもしれない。

「タバコちょうだい。50番」
「はい。ふたつでよろしいでしょうか?」
「うん」

時々はいってくるお客さんのレジをしながら、店内の様子をなんとなく把握する。窓際にサンデーさんたち、サンドイッチコーナーにはアルバイトおばちゃん、万引きしがちな白髪のおじいちゃんがまたドリンクコーナーをウロウロしてる。

「ありがとうございました〜」
「あいよ!」

意気揚々と帰って行くドカタのおっちゃん。

窓際のサンデーさんたちを見ると、ようやく次世代さんが読み終えたらしく棚に戻した。
そして元祖さんに目配せをして、軽く会釈。『あ、すいません』なんてふたりの声が聞こえた気がする。

「……ありがとうございましたー」

なぜか嬉しそうに退店する次世代さんを見送りながら私はいつもの挨拶をした。

次世代さんはその挨拶を、いつも一応きいてるらしい。

前を向いたまま小さく会釈して横断歩道を渡って行くのが見える。

元祖サンデーさんは満足そうにサンデーに手を伸ばしいつものように読み始めた。

「いらっしゃいませー」

私はついついボンヤリしながら機械のようにそう挨拶する。

ティロリロリローン、センサーに反応した機械音に反応するように。

ティロリロリローン、

「……ありがとうございましたー」

……、っていうか

買えや。

と私は毎週心の中で呟いている。

次へ 投稿

前へ 投稿

© 2024 365文

テーマの著者 Anders Norén