365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

今、をただ描写してみた。

目の前に窓ガラスがある。ワイヤーが格子に入っているタイプの防犯ガラスだ。

窓の向こうには、誰かが落としたのか捨てて行ったのか、白いゴミ袋が一つ。中身はめいっぱい入っていて、透明な容器が入り口から覗いている。見る限りプラスチックゴミ。適当に投げた割にはしっかり分別されたゴミのようだ。そんな窓の中にも物語はあって、時々人が通り過ぎる。

黒のダウンベスト、黒っぽいスキニージーンズ、赤い長袖を着たお兄さんが窓の向こうに現れた。ゴミをいぶかしげに見つめてゆっくりの歩幅になり、変なゴミでは無いと判断したのか、ゴミを通り過ぎ1メートルくらい行ったところでしゃがみ込んだ。

スマホ片手に眺めながらばこ休憩。横顔で赤いイヤホンコードがチラリと見えた、黒縁眼鏡。

一本をゆっくり吸い終えて、お兄さんは来た道を進み窓からフェードアウトして行った。

もちろん、その後お兄さんがどこへ行ったかなんて私は知らない。

まもなく15時。おやつ時とあってか、ティータイムを過ごす客足が増え始める。

若い女性客だろうか、楽しそうに会話する声が店内に響き始めた。

左側には所謂ノマドワーカーだろうか、私服でパソコンのキーボードを打ち込む男性。白シャツだと気づいて最近はやりの『ミニマリスト』という単語を思い出した。

アニメ声の女性店員が鈴のような通る声でオーダーを読み上げる、奥にいるキッチンスタッフがオーダーを繰り返す。

もう二度と今と同じ状況になることは無い。もう二度と会うことのない他人たち、この空間とこの空気、雰囲気。

そう思うとなぜか急に漠然と、大切な事のように思い始めた。

外は薄暗い曇り空。気の浮かないこんな陽でも、得るものはあるものだなと、ただ何となく思ったのだった。

おわり!

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