365文

365日ぶんの、フラッシュ・フィクションたち。

12日、朝

私たちは一睡もしないまま、布団にも入らないままだった。

余震が続き、いつ何が起こるか解らない恐怖で、眠るという感覚が無かった。
私自身、この状況で寝れる気もしなかった。

明け方、白い朝。玄関の方で何か音がした。
「もしかして、新聞か?」

おじさんが玄関に行くと、やはり新聞が来ていたらしい。持ってきて、私たちの前に置いた。

『号外』と書かれた文字。

まさかあの地震の翌日で、新聞は来ないだろうと思っていたので驚いた。

しかし、その内容は、まるで信じられないようなものだった。
津波後の写真や、行方不明者という文字が書いてあった。

私たちは絶句して、何も言えなかった。

下手な事を言えない、そんな気持ちになった。

マグニチュード8
震度7

その文字は、納得出来たような気もするし、『いやいや、もっと大きかった』とも言いたくなった。

宮城県は地震が多い。揺れでだいたい震度がどれくらいか当てられる人は多く、わたしもそうだった。
ただ、あの地震は今までの地震とは全く違う地震だった。

経験したことのない、まさに『次元が違う』揺れだった。

「すごいな……」

息を飲むようにそう言って、それから私たちはまた、静かになった。

暫くすると、外で物音が聞こえた。
車のタイヤが砂利を踏む音だ。

「来たんじゃない?」
「え、もう?」

窓から見ると家の車だった。

朝7時過ぎだったが、親だった。
思ってた以上に早く来た迎えに、わたしはほっとした。

「良かったわね」
「はい。ありがとうございました。」
「気をつけてね。」
「はい!そちらも、まだ余震があると思うので、気をつけてください。」

そんな会話をして、家を出た。
母親が車から出て来て、

「すみません、ありがとうございました。」

と話し、「本当にすごい地震で……、」といくつか話し、お辞儀をして、車に乗った。

「家は大丈夫だった?」
「すごいわよ〜、ヒビ入っちゃったんだから」
「えっそうなの!」
「お父さんは?」

そんな話を矢継ぎ早にしながら、家まで帰った。

車の窓から見える景色に、ほとんど人はいなかった。

通り過ぎるバス停の天井と柱が、グニャリと粘土のように曲がっていた。

乗っている車が、ときどきバウンドする。

地震でところどころ地面が盛り上がってるらしい。

見慣れた風景は、どこか見慣れない空気感で、まるで人の気配を感じない廃墟のようだった。

空は明るく天気も良かったが、どこか白く寂しかった。

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テーマの著者 Anders Norén